味覚は本当に“舌の場所”で違う?最新科学が解く誤解
「甘い味は舌の先」「苦い味は舌の奥」――
そんな“舌の地図”を学校で習った人も多いのではないでしょうか?
実はこの「味覚地図」、現在の科学では誤りだとされています。
では、味覚は本当に舌の場所で違うのでしょうか?
この記事では、味覚の仕組みと、なぜこの誤解が生まれたのかを詳しく解説します。
「舌の地図」は100年前の誤解だった
舌の地図の元となったのは、1901年にドイツの科学者ハーニッヒ(D. P. Hänig)が発表した研究です。
彼は舌の各部位で味の感じ方にわずかな違いがあることを報告しました。
しかし、そのデータを1930年代にアメリカの心理学者エドウィン・ボーリングが翻訳した際、
「感じ方の差」を「感じる場所の違い」として解釈してしまったのです。
この誤訳が原因で、“舌には味の分布地図がある”という誤解が世界中に広まってしまいました。
実際には、舌全体で味を感じている!
現代の研究では、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味といった味覚は、
舌のどの部分でも感じることができることがわかっています。
なぜなら、味を感じるセンサーである味蕾(みらい)が、
舌全体に均等に分布しているからです。
▶ 味蕾(みらい)とは?
味蕾は、味を感じ取る小さな器官で、ひとつの味蕾には50〜100個の味細胞が含まれています。
舌の表面には約5,000〜10,000個の味蕾が存在しており、
これらが「甘い」「しょっぱい」「すっぱい」「苦い」「うまい」を感じ取っています。
つまり、“舌の先”だけが甘味を感じるわけではなく、
舌全体であらゆる味を感じ取っているのです。
なぜ「甘味=舌の先」と言われたのか?
実は、まったく根拠がないわけではありません。
舌の部位によって味の感じやすさに“わずかな差”はあります。
| 味の種類 | 比較的感じやすい部位 | 理由 |
|---|---|---|
| 甘味 | 舌の先端 | 刺激に敏感な神経が集中しているため |
| 塩味・酸味 | 舌の両側 | 味蕾が多く、塩味や酸味を素早く検知 |
| 苦味 | 舌の奥 | 飲み込む前に危険を察知する防衛反応 |
| うま味 | 舌全体 | 食事全体の味わいを感じる重要な要素 |
つまり、「甘味は舌の先」「苦味は舌の奥」というのは、
“最も感じやすい場所”を示しているだけなのです。
味を感じるのはどの部分でも可能であり、舌の場所で完全に味が分かれているわけではありません。
味覚は“舌だけ”で決まらない!
実は、私たちが「味」と感じているものの大半は、
嗅覚(におい)や触覚(舌触り)によって支えられています。
- におい:食べ物の香りが鼻を通じて脳に伝わり、味の一部として感じる
- 温度:熱い・冷たいで味の感じ方が変わる
- 食感:とろみ、シャキシャキ感なども味覚体験に影響
つまり、味覚は舌だけでなく、五感すべてが協力して作り出している感覚なのです。
味覚を感じる「五つの基本味」
現代の科学では、味覚は次の5つに分類されています。
- 甘味(sugar) … エネルギー源を感じる
- 塩味(salt) … 体のミネラルバランスを調整
- 酸味(sour) … 腐敗や未熟を察知
- 苦味(bitter) … 毒などの危険を回避
- うま味(umami) … タンパク質由来の旨さを検知
どれも生きるために必要なセンサー。
味覚は単なる“嗜好”ではなく、生命維持に関わる防衛機能なのです。
まとめ:味覚は舌全体で感じている!
- 「舌の地図」は誤訳から生まれた古い説
- 味蕾は舌全体にあり、どの味もどの場所でも感じられる
- 部位ごとに“感じやすさ”の違いはあるが、限定ではない
- 味覚は舌だけでなく、におい・温度・食感も関係している
つまり、「味覚は舌の場所で違う」は部分的には正しいが、全体的には誤解というのが科学の結論です。
次に食事をするときは、「舌のどこで感じるか」よりも、
五感全体で味わってみると、新しい発見があるかもしれません。


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